子どもの心がどう動き、どう変化するか。
“誰かのために”という気持ちが原動力になる。
風の谷幼稚園では春の「じゃがいも堀り」秋の「さつまいも掘り」と年に2回行われます。
この芋掘りにはルールがあります。
① 好きなだけ掘ってもいい
② 掘った芋は全て自分で園まで持ち帰る
③ 途中で下ろした芋は先生のもの
掘りたいだけ掘って、持ち帰りたいだけ背負って帰る。重くて量を減らしたいと思った子は減らしてもいい。しかし、自分の体から離したものは先生のものになる。量を減らすか減らさないかは自分で決め、自分で決めたからには、泣いたり弱音を吐いたりはしない。これが、風の谷幼稚園のいも掘りのルールです。
じゃがいも畑はアップダウンの激しい尾根道を1.5km歩いた先にあります。ただ歩くだけでも大変なのに、帰りはずっしりと重いじゃがいも入りのリュックを背負って歩くことになります。じゃがいもの重さに耐えながら涙をこぼす子も少なくありません。しかし、自分で掘ったじゃがいもです。「絶対に持ち帰るんだ」という強い意志から子どもたちは歩き続けます。「じゃがいもを減らしたい。でも減らしたら家に持って帰れない。」心の葛藤を通して、心は強く成長していきます。
「子どもたちに“自分の行動に責任を持つ”ということを教えたいのです。芋は掘りたいだけ掘っていいことになっています。そして、尻もちをつきながら子どもたちは懸命に掘ります。この芋を掘るということだけでも、自然と触れ合うとか、収穫の楽しさを知るという教育的な意味はあるでしょうが、それだけでは娯楽になってしまう可能性もあります。自分で掘ったものは自分で持って帰るということまで含めて指導すれば、 子どもたちの中に“自己責任”という意識が育っていきます」(天野園長)
花組(年少児)は、まだ自分の力を知らないので掘るのが面白くてどんどん掘ります。しかし、いざ持ってみたら立ち上がれません。そこで初めて自分の力がどのくらいなのかを知る事になります。
鳥組(年中児)は、花組の時に訳もわからず何とか背負って帰ってきていますが、鳥組になってもその傾向があります。ところが後悔し始めます。いっぱい背負いすぎて、欲はあるから下ろせない。半分泣きながらも仲間の手を引き、励まし合いながら戻ってきた事が子どもの心に突き刺さります。
風組(年長児)は、行きも帰りも花組と手をつなぎ一緒に歩いて行きます。花組がいるから苦しいと言えない、泣けない、下ろせない。花組を気遣いながら行動し、じゃがいもを待っている家族やご近所さんのためにと踏ん張り、幼稚園を目指します。
「お母さんは、〇〇さんにもあげよう、おじいちゃん、おばあちゃんに、お隣さんにもあげようと言って、子どもに欲を持たせてください。そういう声がけをしてくださいね。そうすると子どもはその人たちのために取ってこようと、重くても我慢しようと、そこにつながるわけです。人間は、大きくても小さくても人のためなら頑張れます。自分のためには頑張れない。人とのつながりを持ちながら、欲を出させる。そういう気持ちを持たせてやることが大事。子供が踏ん張る、頑張る、そういう力を身につけていきます。」(天野園長)
どんなにきつくても歩みを止めず、花組を連れて帰ってくる風組。最後まで仲間と励まし合い、無事に園まで戻ってくる鳥組。風組の優しさに触れ、手のぬくもりに励まされる花組。先生や仲間に支えられ、強い意志で持ち帰った芋の入ったリュック。園に足を踏み入れた時には誇りに満ちた表情が広がります。先生やお母さんたちが用意してくれた蒸かしいもや、さつまいものお味噌汁を食べる頃には、どの子の顔にも清々しい笑顔が戻ります。そして、家へ帰り家族から沢山の褒め言葉と感謝の言葉を受け、その言葉を糧に子どもたちは更に確かな力を持って大きくなっていきます。