第8回 「風の谷の子」だから~天野先生のひとりごと~

4年生になった和哉くんがフラリとやってきた。トラブっていた友だちとの関係が、解決したこともあって足が幼稚園に向いたらしい。

小学校に入学した当初、何か事があるたびに先生に言いつけるクラスメイトを不思議に思うらしく「何でもかんでも、先生に言って、自分たちで解決しようとしないんだよね」と良く嘆いていたとお母さんから聞いたことがあった。
幼稚園で仲間との関係づくりをいろんな活動を通して学んだ和哉くんにはなかなか理解しにくいことであったらしい。

それから3年が過ぎ、和哉くんは小学4年生になっていた
クラスメートの中には、自分の気持ちを上手く言葉に出せないためか、すぐに手を出す子がいて、この半年間和哉くんは背中や足を蹴られる事が続き悩んでいたという。
それでも、休み時間は一緒に遊ぶ仲間だそうで、手を出されるのだけが嫌で、どうしたらいいものかと悩みが深まっていたのだ。

そして、とうとう自分がやられるのも嫌だけど誰かがやられて泣くのを見るのも嫌だ、体も痛いけれど、心も痛いとお母さんに相談したしたところ、お母さんが動いてくれて、次の日に先生も交えてその子と学校で話し合うことができたという。
和哉くんは「やっぱりちゃんと話せてよかった。謝ってくれたし、もうしないと言ってくれた。あいつも本当は優しい奴だから」と言った。

話を聞きながら私の頭の中は、「やめてくれよ、やめてくれよ」と言いながらぶたれたり蹴られたりしている和哉くんの姿が浮かんでいたし、その時の辛さがヒシヒシと伝わって来ていた。
思わず「暴力を振るわれて辛かったでしょ。よく頑張れたよね」と隣に座っていた和哉くんの肩に手を回し抱きしめずにはいられなかった。
そして「なんで、この半年間もそういうのに耐えられたの?」というと彼は、照れながらも「風の谷の子だからじゃないかな」と言った。
胸がキュとして涙が湧いて、続きの言葉が発せられなかった。

しばらくして、「こんどさ、その子もさ、連れておいでよ。美味しい物をつくってあげるからね」というと「味噌おにぎりがいいなぁ。味噌おにぎりはおいしいんだよね」と顔をほころばせた和哉くんだった。

幼稚園を創るとき、この場が光に溢れ風が流れ子どもたちの心のふるさとになれたならと思っていた。
大人になるまでには、いろいろな事があって、沢山の辛さや悲しさや寂しさを味わうことだろうが、それらを一つひとつ乗り越えながら成長する事を願っている。
けれど、心がきしんでうずくまりたくなった時には、帰っておいでと思っている。
たんぽぽ広場やえのき広場が、そしてあじさい広場や竹林が、そこで過ごした思い出が、きっと踏ん張る力を湧き起こしてくれるはずだからと。

和哉くんに励まされ、幸せ感が胸いっぱいに広がった。

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