2. 幼児期に必要な「3つの力」とは?

「人間として誇りを持って自分らしく生きていく。そんな子どもを育てたい」

風の谷幼稚園が掲げる教育目標を端的に言い表すならば、この一言に集約される。

では、「誇りを持って生きていく」というのは、どのような状態を指しているのだろうか? また、3歳から5歳の幼児が「誇りを持って生きていく」ことなどできるのだろうか? この質問に対して天野園長は答える。

幼児期に身につけておくべき「3つの力」

「誇りを持って生きるとは、言葉を換えれば、自信を持って生きるということです。自分の可能性を信じ、自らの手で未来への夢と希望を描ける。そんな子どもを育てるためには、幼児期に必ず育てておかなければならない『3つの力』があります」

そして、その「3つの力」とは、以下の内容だという。

1) 生活力(身辺の自立)
    (ア) 衣服の自立…着脱、衣服や持ち物の管理、状況に応じた服装ができる判断力など
    (イ) 食の自立…食べることへの興味・関心を高める、味覚を育てる、食べるための道具を使
          いこなす技術の獲得など
    (ウ) 排泄の自立…朝の排便習慣の獲得、健康管理への関心を高めるなど
2) 人や自然と交流できる力
3) 「問題は必ず解決できる」という思考力

なお、この『3つの力』については第3回以降で詳しく解説するが、これらは天野園長自身の豊富な教育経験に基づき確立された、時代や環境が変わっても幼児教育に決して欠かすことのできない力である。そして、風の谷幼稚園の教育カリキュラムは、すべてがこの『3つの力』を育てるために設計されている。

「何かがおかしい」この時代
改めて躾の大切さを問う

ところが、この幼児期に身につけさせるべき力が「大人の勝手な理屈によって十分育てられていないのではないか」という危機感があるという。その一例が「価値観の多様化」という言葉の一人歩きだ。

「最近では『価値観の多様化』の大切さがよく言われます。もちろん、『価値観の多様化』自体を否定するつもりはありません。しかし、この言葉に惑わされ、 “何でもあり”つまり“自分がいいと思えばいい”という部分だけが一人歩きを始めているように思うのです。この結果、社会生活に欠かせない共通ルールを認識できなくなり、自己中心性と無責任さが人の心の中に巣くい始めたのではないかと考えています」(天野園長)

また、子どもの『自ら育つ力』への過信も危険な一面を持つ。

「『子どもたちは素晴らしい、子どもたちは自らの中に成長する力を持っている』と言われます。ですから、『子どもを信じて温かく見守りましょう。そのうちしっかりしてくるから…』という主張をよく聞きますが、私は子どもたちの『自ら育つ力』というものを過大評価してはいけないと思っています。極端に言うならば、子どもたちに備わっている素晴らしい力とは『学ぶ力』だけです。だからこそ幼児期には、この『学ぶ力』に依拠した教育を行うことが必要だと考えています」(天野園長)

この教育を行う前提として、「子どもは白紙状態である」という捉え方が大切であるという。

「子どもは小さければ小さいほど、自分が生存し続けるために本能で反応します。ある意味では、動物的な存在なのです。それが、ひとつひとつ大人に声をかけられながら対応する中で、少しずつ人間らしく育っていくのです。

分かりやすい例をあげるなら、おしっこを決まった場所ですることでさえ教えられて初めて身に付けるものですし、食事は座って食べるものということも教えられて分かるものなのです。犬も猫もウサギもしつければこの程度はできますが、人間が人間として育つということは、教えられて学んで自分のものにしていくということだと思います。この『学ぶ力』こそが、人間になってゆくための『偉大なる力』なのだと考えています」(天野園長)

このように子どもを捉えるならば、「子どもが人間として育つためには、大人はどのような内容を伝えていくべきなのか」ということが大切になってくる。

そして、「その内容を十分吟味して丁寧に伝えていくこと」が、日常の中で当たり前のこととして行われていることが望ましい。

ところが、大人がその内容を吟味せず、伝える努力を怠り、「あなたに任せるから好きにしていいよ」と指導をしてしまうと、子どもは判断基準が持てず、自分の場所に引きこもってしまうことになる。その結果、せっかくの「学ぶ力」を生かせない。つまり、子どもが人間として育たないのである。

そこで、風の谷幼稚園ではこの「3つの力」を育てることを目標として徹底し、個々人の発育段階に応じて、「教える」ことをベースとしたきめ細かい指導を行っている。

「極端な言い方をすれば『幼児教育とは躾である』とも言えると思います。躾と聞くと苦痛を伴ったり、動物を調教するかのようなイメージをもたれるかもしれませんが、本来の躾とはそういうものではありません」(天野園長)

実際に躾という漢字は「身を美しくすること」を意味する国字である。社会との秩序を保ち、他人との交流を円滑に全うするために身につけておくべき考え方や、礼儀作法を教えることこそが本来の意味である。

「人間は理性とか美意識というものを持って他人や物事に接していける素晴らしい存在だと思います。ただ本能の赴くままに食べたり寝たり、周囲のことも考えずに自分勝手に振舞うだけなら、野生の動物と変わりはありません。人間は自分の“いのち”を維持するためだけに生きるのではなく、理性や美意識によって本能すらもコントロールし、自分の存在に誇りを持ち、心豊かな社会生活を作っていける素晴らしい存在なのです」(天野園長)

そして、「人間として生まれてきた子どもが、この素晴らしい“人間”という存在になるためには、絶対に教えておかなくてはならないことがある」というのが、風の谷幼稚園の教育の根底を流れる考え方である。

天野園長は「人間が人間になるための幼児期」という言葉をよく使う。では、幼児期の子どもが、どのような教育を通じて人間になっていくのか。次回から具体的な話も交えながら、『3つの力』について見ていこう。

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