5. おしっことウンチに秘めた教育意図

「あかいろのものをたべると」

「あかいろうんちがでるのかな」

「きいろのものをたべると」

「きいろのうんちがでるのかな」…

「ちょっとおしりがいたい」

「ころころうんち」…

絵本を読み聞かせてもらいながら、子どもたちは嬉々としている。笑い転げたり、興味深く見入ったり、今朝のトイレを思い出したようにしたように考えこんでみたりと、なんとも微笑ましい光景だ。

風の谷幼稚園のオリジナル絵本「なないろうんち」。 大人たちが子どもの「排泄の自立」のために、一冊一冊手作りした

この冒頭の文章は風の谷幼稚園のオリジナル絵本「なないろうんち」の一節。この絵本は手書きの文字と切り絵で構成され、つくった大人たちの温かみが伝わってくる絵本だ。

この手作りの絵本があることからも伝わってくるように、風の谷幼稚園では子どもの排泄指導を重要視している。「排泄の自立」という概念を提唱し、これが大きな教育目標として掲げられているのだ。もちろん、これだけ重要視するのには理由がある。排泄が子どもの健康管理に大切であるという観点はもちろんだが、実はもっと奥深い教育意図が含まれているのである。

では、その教育意図とは何なのか?今回はその内容を見ていこう。

理性の力で本能をコントロールする
これが人間らしく育つということ

まず、「排泄の自立」とは何を意図しているのだろうか?

■一人でトイレに行けるようになる
■トイレの始末ができるようなる
(ズボンの上げ下ろし、便器を汚さない仕方、トイレットペーパーの使い方、水の流し方)
■見通しを持ってトイレに行ける(出かける前にはおしっこをしておく)
■朝の排便を習慣化する(5歳のときには自分の意思で朝の排便を習慣化する)
■おねしょをしないようにする・・・

具体的にはこれらの内容ができるようになることを指している。

しかし、大切なのはこれらの結果のみならず、その根底を流れる考え方である。風の谷幼稚園では排泄行為を「人間が意志の力で自分の身体をコントロールできるようになる第一歩」と捉えており、生活マナー以上の意義を見出しているのだ。

「たとえばおしっこの問題を考えてみると、したい時にしたい場所ですればいいものではなくて、してもいい時に指定された場所でできるようになることが大事です。特におしっこのタイミングが自分の意志の力でコントロールできるようになることは、社会生活上必要なことでしょう。しかし、これは見方を変えれば自分の意思で本能をコントロールしているということでもあります。おしっこに限った話ではありませんが、意思の力で本能をもコントロールしていける。だからこそ人間とはすばらしいものなのだと思います」(天野園長)

つまり、排泄の指導を通じて、「意思の力で自分の本能をコントロールできる力」を幼児期にしっかりと身につけさせておく。これが「人間が人間になるための幼児期」に欠くべからざる教育と考えているのである。

3歳児からの排泄の習慣化
学ぶ力の発展段階に応じた指導

子ども用の洋式トイレ(写真内の風の谷幼稚園・横山先生は身長175センチメートル)

では、この排泄の指導はどのように行われるのか?これは年齢に応じて指導内容が変わってくる。たとえば以下のような内容だ。

3歳児・・・「食べたらトイレに座る(洋式)」という
           指導で行動を定着させる
4歳児・・・「食べたらトイレに座る、出たらスッキリ
           するよ」ということを繰り返し語りかける
5歳児・・・好奇心にあわせて、「どういう体調の
          ときにはどういうウンチが出るか」など、
          排泄という行為を知的に理解させる

「3歳児というのは、とにかく原則的な行動を定着させることが大切な時期です。そして、4歳の後半くらいになるとだんだん自分の体に対する自覚が生まれ、体と意識が連動し始めます。さらに5歳になると、自分で自分の生活をより良いものに変えていこうという意識が芽生え、ある面で『知的』になっていきます。この時期には子どもの好奇心にあわせて、『朝にウンチをした方が良い理由』『どうすれば朝、ウンチが出るか』などを知的に理解させるようにします」(天野園長)

 幼児期の子どもの教育は、まず原則的な行動を身につけさせ、成長に応じて行動の意味を知的に理解させていくというステップを地道に踏んでいく。この着実な積み上げによって、子どもたちは「排泄の自立」を獲得し、さらにその結果として健康管理への興味が高まり、「自分の健康は自分で管理するもの」という意識が定着していくという。

実際に、風の谷幼稚園では朝型の排便を積極的に指導し、5歳児クラスではほとんどの子どもが自分の意思でその習慣を獲得している。

「前の日に食べたものは朝出して、体を軽くして1日をスタートさせるわけです。これは『食べたら出してスタート』という生活のリズムをつくるということでもあります。自分の経験上、この習慣が定着すると、子どもが体調を崩すことはなくなっていくという実感があります」(天野園長)

もちろん、「排泄の自立」は、「子どもの意識を散漫にさせない」という観点からも大切だ。

「大人でも便秘をしていたり朝の排便をしていないと、おなかが気になって目の前のことに集中できないことがあります。特に子どもはおしっこやウンチには敏感に反応します。つまり、排泄のことが気になると、活動において注意力が散漫になり、集中できなくなるのです」(天野園長)

確かに子ども時代を思い返してみると「排便が気になって日中の授業や課外活動にまったく身が入らなかった」そんな思い出がある人も多いのではないだろうか。

風の谷では紙パンツは使わない
その理由とは?

また、「排泄の自立」について、風の谷幼稚園が重視しているのは「おねしょをしない子どもを育てる」ということだ。これは親向けの勉強会や合宿などを通じて指導をおこなっているが、このテーマについても実に多くの教育的観点がある。

まず、その第一は前述通り、「おしっこはトイレでするもの」という意識を持たせることで、自分の身体をコントロールする力を身に付けさせるということだ。そして、これを確実なものにするために、風の谷幼稚園では寝るときに紙パンツは使わないよう親に指導しているという。これはいったいどういう理由なのか?

「まず、子どもは『おねしょをしちゃいけない』ってことはわかっています。でも出ちゃうんですね。そこで、大人が自分自身のあり方も含めて『なぜ、おねしょをするのか?』『おねしょをしないためにはどうしたらいいのか?』を考えてやることが大切です」(天野園長)

子どもを育てる大人は、誰もが「子どもにおねしょをさせたくない」とうい気持ちを持っている。しかし、その気持ちには二通りの意味があるという。

「その子どもの身体の機能を発達させて、おねしょをしないようにしてあげよう」

「おねしょをされると自分が面倒くさいから、おねしょをさせないようにしよう」

どちらかの気持ちだけのこともあれば、両方の気持ちが入り混じることもあるだろう。後者の気持ちが強くなると、子どもが不快感を覚えず夜中に起きなくて済む「紙パンツをはかせる」という結論になりやすい。しかし、ここで考えなくてはならないことがある。

「これは『衣服の自立』とも関連しますが、まずは『おねしょをすると気持ちが悪い』という感覚を持たせることが大切です。この気持ちが悪いという感覚こそが『おねしょをしないようにしよう』という意識を育てます。その結果として意思で身体をコントロールできる力が育ち、さらにその結果として、見通しを持って生活できる力が育っていくと考えています」(天野園長)

また、おねしょを叱ることもしない。そのときには子どもがおねしょをした理由を大人が探し、「今日は疲れていたのね」などとやさしく声をかけてやる。なぜなら、子どもがおねしょをするのは当然のことであり、失敗すること自体が悪いことではないからだ。一番大切なのは子ども自身の「おねしょをすると気持ちが悪い。しないようにしよう」という意識を育てること。これによって意思と身体が成長していくと考えているのだ。

その一方で、子どもの意志の力を超える範疇の問題については、当然大人がケアをする必要がある。たとえば寝る前に水を飲みすぎないよう制限することなどは、大人が手を打つべきことであるという。

これら一連の考え方には異論反論もあるだろうが、“すべてが子どもの健やかな成長のためにのみある”風の谷幼稚園においては当然の結論なのである。

以上3回にわたってお伝えした生活力=「身辺の自立」。これらの達成によって、子どもたちが「自分の事は自分で出来る」という自信をつけ「自分の事は自分でやるものなのだ」という意識をごく「当たり前」に持つようになり、それが「誇り」へとつながっていく。この事実は一見に如かずだが、文面を通じて少しでもご理解いただけたなら幸いである。

次回は、誇りを持って生きていくために必要な力の2つ目である「人や自然と交流できる力」について紹介する。

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