二奈も最近、「合宿モード」に入っています。「先生が合宿の下見に行ったことを話してくれた」と、とても楽しそうに目を輝かせて語ってくれました。
特にお風呂については、入るたびに「(湯舟は)2班と4班の机を合わせたぐらい広いんだって~」「ニナちゃんは髪の毛を最初に洗って体を洗って入るけど、順番が違う人もいるんだってよ」「背中は並んで洗うんだって」などと話しています。
今まで髪が長くて必ず私と一緒に入っていたのですが、昨日髪を切ったことにより、今日は自分ひとりでお風呂に入りました。髪を短くしたというちょっとしたことで、自分でできることが増えるんだなぁ・・・と感じました。
ちょっと心配だったので兄に見てもらいはしたのですが、なんとか自分ひとりでこなすことができました。お風呂から出てくると「ぴっかぴかでしょ!」と、とても誇らしげに言っていました。
これからますます「合宿」が具体的になってきます。二奈にどんな変化があるか楽しみです。
風2組 「合宿だより」より
風の谷幼稚園では、年長児の1学期が終わった後に長野県の菅平高原で合宿を行う。冒頭で紹介したのは、合宿の直前から先生と親との間で交わされる「合宿だより」からの抜粋だが、合宿に向けて心を躍らせている子どもの胸のうちが伝わってくるようだ。
この合宿は3泊4日の日程で行われる。合宿中は班ごとに行動することが基本ルールで、部屋も班ごとに1部屋与えられる。まさに4日間、家族のもとを離れ、先生と仲間たちだけで完全な集団生活を送ることになるのである。
そして、この合宿前後で子どもたちの心は大きく成長し、「5歳の誇り」がますます大きく、そして確固たるものになっていく。今回はその様子をご紹介していこう。
大自然の中でこそ育つ「心」がある
最初に合宿の目的を紹介しておこう。風の谷幼稚園では、以下の3つを掲げている。
(1)日常生活では味わえない大自然の中で生活をし、山登り、川遊び、急斜面での草すべりなど、そこでのさまざまな自然体験を通し、自然の雄大さ、自然の中で遊ぶ気持ちよさなどを感じ、自然との一体感をもてるようにする。
(2)家族と離れ、これまでとは異なった生活環境の中、「自分のことは自分でする」という意識を持てるようにする。そして、自分の身のまわりの管理を含め、さまざまな状況への対応力をつける。
(3)仲間と一緒に生活し、活動することの楽しさを味わう。また困難なことでも「やり抜いた」という満足感、充実感を持てるようにする。
まずは(1)について。密着レポート第6回で「人や自然と交流できる力」を育てることが、風の谷幼稚園の教育の柱であることを紹介した。このうちの「人と交流できる力」については再三ご紹介してきたが、「自然と交流できる力」について触れておこう。
天野園長は「子どもたちに自然を残してあげたい」という言葉をよく口にするが、彼女の言葉は常に実行を伴う。設立当初700坪だった敷地は、先生や父兄の献身的な努力で現在は4000坪にまで広がり、新宿から電車で30分の場所とは思えないほどの自然が保たれている。そして、子どもたちはこの恵まれた環境の中で毎日自然と触れ合っているわけだが、それに加えて大自然の中での合宿が行われるのである。つまり、風の谷幼稚園における合宿とは、「自然の中で生活することによってこそ育つ感性・価値観がある」という信念に基づいた連続性のある教育活動の一環であり、その集大成という位置づけだ。単発で行われる「思い出作り」の観光や遠足ではない。だからこそ、3泊4日という長期日程が組まれ、その期間に大自然を十二分に感じられるような活動が設計されている。
例えば、合宿初日に行われる「川遊び」。水道水とは違った雪解け水の冷たさは、子どもたちが大自然を感じる手がかりだ。そして、この冷たさもなんのその、川のぼりにも挑戦して大自然の奥深くに突き進む。そして2日目には、年長児全員がゲレンデで一列になって手をつなぐという活動が用意されている。全員が手をつないでも、まだまだ先まで広がる大草原。
「自然ってすごいな」
「意外と自分ってちっぽけだな」・・・
子どもたちが感じることはそれぞれだが、体ごと感じた「自然と人間の一体感」は、心をより豊かに成長させる原動力となる。これが、まさに「自然と交流できる力」なのである。
合宿の成果が上がるのは
事前準備があればこそ
次に(2)について。家族と別れて異なる生活条件の中に置かれても、「自分の身辺管理は自分でできる」「環境に適応できる」という体験を通じて、3歳児のときから育ててきた生活力を「生きる自信」につなげていくことが合宿の大きな目的だ。見方を変えれば、子どもたちの生活力が実戦で使えるかどうかを試される場とも言える。
もちろん、本質的な目的は子どもたちに自信をつけさせることであって、テストではない。よって、この合宿が自信につながるように、そのお膳立ても細やかに用意されている。その代表的なものが親向けに行われる合宿説明会と、冒頭で紹介した「合宿だより」の発行である。
通常、合宿説明会と聞けば、「合宿の行程」や「合宿に持参するもの」の説明を聞く集まりを想像するかもしれないが、風の谷幼稚園のそれは少し異なっている。合宿説明会と言うよりは、「幼児期に定着させておきたい生活習慣」を学ぶ勉強会と言った方がイメージは近いかもしれない。
例えば、子どもの食事中の水分の取り方についての指導などが行われる。園長自らが説明に立ち、「食事中に水やお茶を沢山飲んで、よく噛まず、流し込んでしまう子どもが増えている」との指摘を行う。そして、良く噛めば唾液が出て飲み込みやすくなるし、胃腸への負担が軽減する。だから、食事を流し込む習慣を改めさせるために、お茶は食事中には出さず、味噌汁などで水分を補い、お茶は食後に飲ませるようにする、といった細かな生活指導を行い、合宿本番までに、その合理的な生活習慣を家庭で定着させるように促す。
そして、合宿では合理的な水分の取り方を実践する。合宿という特別な機会だからこそ、その行動は印象深く心に刻まれ、子どもたちはそのやり方を受け入れていく。つまり、合宿という機会は、子どもたちの日頃の生活習慣を再チェックし、合理的習慣を定着させる機会としても位置付けられているのである。
もちろん、合宿に向けたきめ細かな指導は、直接子どもたちに対しても行われる。合宿が目前に迫った1学期の後半には先生たちの指導も「合宿モード」になってくる。例えば、「うんち」の話題を積極的に取り上げて朝の生活習慣に意識を向かせたり、家庭での「自分の仕事」などを話題にしては「自分でやるべきことができているか」ということに意識を向かせたりする会話を多く行う。
さらに、子どもたちは合宿を通じて新しい生活力を獲得することにもなるが、この具体的内容については、密着レポート第6回「優しい子が育つお風呂と洗濯袋」の入浴マナーをぜひご参照いただきたい。
非日常の環境で
生活できたことが「誇り」に
今まで紹介した活動の他にも、キャンプファイヤー、湿地帯探検、山登り、スキーでつかう急斜面を使っての草すべりと、仲間たちと全身を使って遊ぶ。この結果、目的(3)が達成されたことは帰りのバスの中での健やかな寝顔が物語っている。では、合宿から帰ってきた後、子どもたちはどのように変わっていくのだろう? 「合宿だより」には以下のように記されている。
自分でしようとする力(真愛・母)
(前略)今回先生方のご指導もあり、生活面での不安がほとんどないことで、合宿がいつもと変わりない生活状態でいられたのだと思います。真愛は毎日よく眠れたと言っていました。本当にうれしいことです。もちろん、先生方への信頼、友達との絆が支えになってのことだとは思います。しかし、不安や寂しさもないわけではなかったと感じられたのは、帰ってきてからの真愛が、妙にくっついてくることでした。普段はさらっとしていて、行く前日も明るく「ママバイバイ~またね~」などと言っていて、真愛はいつもと変わらないのかと思っていたら、意外な変化でした。まだまだかわいいと思わされました。
(中略)帰ってきてからの変化は、なんでも自分でしようとすることでしょうか。親と離れて生活できたことが自信になったようで「自分でやる!」という言葉を何度も聞きました。この大きな体験で、きっと心も体もひとまわり大きくなったのだと思いました。バスから降りてきたとき、大きくて重いリュックがなんだか軽そうに見えたのもやり遂げた自信からだったのでしょうか。
自信がついた入浴方法(あすか・母)
(前略)合宿後のあすかの様子で変化のあったところは「入浴」でした。私に「最初から最後まで見ていて!」と自信満々に見せてくれます。合宿前に教えたつもりでも、合宿中に教えてもらった完璧な入浴法があすかの自信となっていました。合宿後の変化はまだこれから見えてくることがあると思います。小さなことでも見逃さず、よくできたことは褒めてあげたいと思います。またその成長を見れる喜びを与えてくださった幼稚園に感謝します。合宿を通してさまざまな角度から生活を見ることができて、私の視野も広がりましたし、あすかも自分の事を自覚するよい機会となりました。このままで終わりにせず、この気持ちを忘れずにほどよい緊張感を保ちながら、日々の生活を親子で楽しんでいきたいと思います。
合宿でもたくさんの自信をつけた子どもたち。この自信が、「5歳の誇り」をより大きく、そして確固たるものにしていくようだ。