はじめに
最近の親子関係を見るにつけ、眉間にしわを寄せ、首を傾げたくなることがしばしばあります。
一体あなたは何を考えて子どもを育てているのですかと、問いたい衝動にかられるのです。
以前から、「子どもは親から離れ、最終的には一人で生きて行く存在なのですよ」と言い続けてきました。
いくら親がその子を大事に育てても、先に生まれた親は、先に命が消えていくものなのです。
だから命を引き継いだ我が子が、自らその命を輝かせて次の命へとつないでいけるように育てることが親の使命なのですと。
現段階では我が子は幼いです。可愛くて可愛くてまさに目の中に入れても痛くないと思うほどの存在でしょう。だからこそ、頭の片隅にでもいいですから、この子のその後を意識してほしいのです。
これは以前にも問題にしたことですが。
子育ての世界には《流行のようなもの?》があります。
最近は、子どもは“自由に伸びやかに育てる事が大事”、“ほめて育てる事が大事”と言う考え方がごく一般的になっています。そのためか、子どもの気分を尊重して、“あるがまま”に成長している子どもたちが増えている様に思えてなりません。
そして、それと同時に、《しつけ》と言う言葉を耳にする事もなくなってきました。
以前は、《しつけ》は家庭で行うベきか学校で行うべきかなどと言う議論もなされたことがありましたが。
もうそれから20~30数年が経過しています。その頃、子どもだった人が今は親になっているのです。
そのため、《しつけ》られる事も無く“自由に伸びやかに、ほめられて成長”し今は親になり、《しつけ》がなんなのかを知る術もなく、子育てに取り組んでいる人たちが多数存在しているのが現実なのかもしれません。
そのせいなのか、事ある毎に「子どもを叱れない」「子どもが言うことを聞かない」
「子どもをどう育てていいか分からない」と言う声が聞こえて来ています。
私は昭和21年生まれですから《しつけ》と聞くと昭和の頃のありよう(封建的な色合い)を思い出します。
そこで改めて「しつけ=仕付け=躾」と言う言葉を、国語辞典で引くと、礼儀、作法を身につけること、教え込むこと、とありました。さらに、礼儀とはなにかと紐とくと、社会生活の秩序を保つために人が守るべき行動様式であり、作法とは物事を行う方法とあります。
改めて、礼儀作法と言うものは人が社会の中で生きて行く上で身につけなければならないものなのだから、小さいうちからしっかり《しつけ》ることが、大事なのだと言う考えに至ります。
それでは、具体的にどんなことを《しつけ》るか、となりますが。
「しつけ」と聞くと思い浮かぶのは会津の日新館の「什の掟」です。
1. 年長者の言う事を聞かねばなりませぬ
2. 年長者にはお辞儀をせねばなりませぬ
3. 虚言を言ってはなりませぬ
4. 卑怯な振る舞いをしてはなりませぬ
5. 弱いものいじめはなりませぬ
6. 戸外でものを食べてはなりませぬ
7. 戸外で婦人(女)と言葉を交わしてはなりませぬ
そして「ならぬものはならぬのです」と会津藩士の子どもたちは 《しつけ》られていたのです。
上記の7番目のように(?)と時代的なものもありますが、それでも現在でも充分納得できる数々の教えでもあります。
礼儀作法を幼い時に身に付けさせられると言うことは、行動基準を教えられながら自分の中に作っていくということであり、安心しながら「こうすることなんだよね」と行動につなげていくことなのだと思います。
そしてまた、成長とともに事の良し悪しを自ら理解しより確かさを持ってその後の行動基準を発展させていく事にもなるのではないかと思えるのです。
卒園児たちの中にある価値観
2022年7月、卒園した子どもたちが数人集まって、幼稚園時代の事を思い返しながら、自分の中に流れている感性や感覚について語り合いました。
その中で将来どんな生き方をしたいのかという問いに対して、印象に残ったのは「人のために役立つ仕事につきたい」と言う発言の多さでした。
また、「働く事が楽しくて、仕事には積極的に取り組んで自分の可能性を広げていくと言う考え方をしていたが、その考え方は幼稚園で培ったものだったと改めて知って、幼児期の教育の凄さを知らされた感じがする」との発言も聞かれ私は身の引き締まる思いでした。
そこで改めて、幼児期の「しつけ」の内容を明らかにして、子どもたちにしっかり身につけさせたいと思うようになりました。
そして改めて風の谷幼稚園の什の教えとして
1. 自分で出来る事を増やし自分の事は自分でやり通すこと。
2. 人と心を通わせ人を支える人となること。
3. 「やれば出来ると思えば出来る」を信じて歩み続ける人となること。
4. 労を惜しまず労に喜びを感じる人となること。
5. 年長者の言う事を受け入れられる人となること。
6. 人には礼を持って接すること。
7. 嘘をついたりいじめをしたり卑怯な振る舞いをする人にはならないこと。
以上を子どもの心深くに刻みつければ、この社会の中で揺れることなく足跡を残せるのではないかと考えるに至ったのです。
2022年8月15日