風1組の担任の金丸先生がやけに興奮して職員室に入って来た。
何事かと席を立ってそばに行くと、 「天野先生聞いてくださいよ。すごいことがあったのですよ」と大きな声で話し始めた。
「直樹くんが、名人になったんですよ。 それでその時 『鳥組の時天野先生が“やれば出来ると思えばできる”って言ったんだよ。だから出来たんだよ』とみんなの前で言ったんです。 鳥組時代の事をしっかり覚えていたんですよ。すごいですよね!」と。
鳥組時代、仲間たちが縄跳びでいろんな跳び方に挑戦している傍らで、「俺もう跳べるからいい」と言わんばかりに「鬼滅の刃ごっこ」をしていた直樹くん。
年長の2学期に入ってクラスで縄跳びが話題になるようになってから時々跳び縄を手にしている姿を見かけるようにはなっていた。
周りの仲間たちは、一拍跳び(はや跳び)やあや跳び、3人跳びやら4人跳びと技術を高めてそれを楽しんでいる。
前跳び、後ろ跳び、前駆け足跳び、後ろ駆け足跳びが20回ずつ連続して跳べたら、〈名人〉と呼ぶことにしていたこともあって、仲間たちは次々と「名人」を獲得していった。
それを横目に、朝に昼に一人黙々と縄を回し続けている直樹くんだったが、そういえば、後ろ駆け足跳びに苦戦している姿は何度か目にしていた。
そんな直樹くんを支えたのが「やれば出来ると思えばできる」という言葉だったようだ。
担任からの報告を聞いて、胸がいっぱいになっていたところに、髪の毛はびっしょりで顔からは汗が流れ落ちて、息の上がった直樹くんが真っ赤な顔でやってきて、「やれば出来るっておもえば出来るって思ってやったんだ、そしたら出来たんだよ」と誇らしげに報告。「よかったね、頑張ったんだね、先生嬉しいよ」と抱きしめずにはいられなかった。
「やれば出来ると思えばできる」を実感した直樹くん。
これから先どんなことがあっても、きっと前を向いて、ひるむことなく歩いて行ける力を獲得したのではないかと思った。「やれば出来ると思えばできる」というカルタの読み札を作ったのは現在 25 歳の萌ちゃんだ。風の便りでは広告代理店に勤めて頑張っているという。きっとめげない精神で今を切り開いている事だろう。
直樹! 直樹もたくましい男になって生きていくんだぞと心の中で叫んでしまいました。