第19回 迷いに迷った父親参観日の講演内容~天野先生のひとりごと~

 今年は5月19日が父親参観日でした。 参観日の内容は、講演と参観です。
講演者は、その年によって異なるのですがお母さん達からの要望もあって、今年は私がやる事にしていました。
 しかし、今年ほど頭を悩ませたことはありません。直前まで中身を決め切れなかったのです。 理由は、「お父さん達は何を知りたいと思っているのだろう」 が分からなかったからです。 そこで、自分の頭の中を整理する意味もあって、基本的な事から考える事にしたのです。
 下記はその時の講演原稿です。

(1) 「父親参観日」とは何か
 父親参観日を設けている理由は、子どもたちが幼稚園の中でどんな生活をしながら日々を過ごして成長しているのかを知って頂きたいから。
 そして、その生活の中で、子どもたちが何を学び、 何を感じ、何を考え、人としての在り方を幼いながら身につけているかを、 理解して頂けたらと思っているから。

(2) 「父親参観日」のみどころ
 運動会など、 全園児が一堂に集まる行事などは、 3歳から5歳までの発達年齢のちがう子ども達を見て、子どもの発達に対しての見通しを持って頂くことが出来るのですが、「父親参観日」 は限られた時間内で、保育場所が異なることもあって他のクラスを見る事ができません。
 ですから、我が子のいるクラスにポイントを絞って、その年齢の成長・発達を見て頂けたらいいのではないかと思っている。

(3) お父さん達に伝えたいこと
 折角お父さんたちが集まるのだから 「お父さんに伝えたいこと」のいくつかをお話しすることにしました。

 最近気になること
 「三つ子の魂百まで=幼い時の性質は老年までかわらない」という諺がありま す。
 また、私を含めて教育に携わっているほとんどの人が“乳幼児期の教育”が何よりも大事だと主張しています。 人の根幹を作る時期だからと。
 しかし、その“乳幼児期の教育”が大事だということが頭では分かっていながら、 具体的には、何をどう大事にすればいいのかが、 あまり明らかにされていません。
 きっと、お父さん達も言葉では分かっていても、 行動に結び付くような形での理解の仕方は、ごく少数、 あるいは薄いのではないかと思います。
 私が、幼児教育の世界に入ったのは30歳です。 今67歳ですから37年間子どもと 向き合ってきたことになります。
 この37年間を通して、感じていることは「子どもと通じ合う心」が次第に薄らいできているのではないかということです。
 コミュニケーションがとれない人が増えていると良く耳にしますが、まさにそれは親子の間でも起きている事なのではないかと思えるのです。
 “心が通い合わないもどかしさ”を抱えたまま、成長すると人は寂しい空虚感をもって育ちます。 本人は何が原因なのかわからないまま、何か満たされない心で大人になっていくのです。
 それが、問題行動を起こしてしまう人達の一つの要因になっているように思えてならないのです。

 先日、 世田谷にあるサミットストアーに買い物に行きました。
広い店内に泣き声が響き渡っていました。 泣き声はあちこちに移動しながら延々 と続いていました一向におさまらない泣き声に、周りのお客さんたちも眉をひそめ ながらあちこちを見回していました。
 レジに並びながら、 私も気になってあちこちを見回していました。 眼に入ったのは、赤ちゃんをだっこ紐で抱いたお父さんが、しゃがんで泣いている子 〈4~5歳〉に何か言っている姿でした。 そばに置かれた買い物かごには品物が沢山入っていましたが、お母さんの姿はどこにもありませんでした。 最終的には、買い物かごはそこに置いたまま、大声で泣く子どもが向かう方向について、 その父親は歩いて行きました。 見たのはそこまででしたが・・・。
 しかし、これに類する光景はよく見かけます。 本屋さんの店内や駅構内でも。
 公共の場での大泣きは、その親子の問題だけでなく、周りの多くの人に迷惑をかけているわけですから、当然親として子どもに 「泣いてはならない」ことを教えてるべきです。
 でも、きっとそのお父さんは「私のいうことを聞いてくれないのです」というでしょうが、泣き止むと言うことは、子どもにとっては自分の感情をコントロールするということでもあり、 成長にとってはとても大事な一歩になるのです。

 風の谷幼稚園が出来て今年で17年。17年間子ども達を見ていますが、子どもが先生の指示を受け入れない、なんて言うことは、まずありませんでした。
 最近の事で言えば、父母室に上がる階段ですが、 子どもたちに「これは二階に行く階段だから子どもは登らないよ」と言っておけば、ほとんどの子は登りません。 遊び場のそばにあってもです
 これは、園のロープ柵も同じです。入園したての花組ですら、ロープを張って「ここから先はいかないよ」と言っておけば行きません。ですから、「小さいからわからない」といった見方をしてはいません。「分からなければどう分かるようにしてやるか」と考える訳です。
 風の谷の子どもたちは、先生の話をよく聞くし、指示も受け容れます。 その理由は、教師達を信頼しているからだと思っています。
 しかし、つまらない話しをしたり、先生が自分に目を向けていてくれないと感じている場合は、話は聞かないし、指示もあまり受け容れません。つまり先生の言うことも聞かないのです。 子どもは実に正直です。
 ですから、園長としては、先生達に、子どもに信頼される関係づくりを常に心がけるように指導しているわけです。
 そこで、私がお父さんや、お母さんにぜひ分かって欲しいことは〈親の言うことを聞く子に育てて下さい〉ということです。これは決して難しいことではありません。
 そのためには、まず子どもを一人の人間として見てください。社会に出てしっかり生きて行ける子に育てるのが親の務めだと思って接してください。
 子どもに問題が起きると、 社会が悪い、環境が悪いとマスコミは報じ、親の責任が曖昧にされていますが、 私は子どものありようは親の責任だと思っています。
 子どもを一人前に育てる責任をお父さんとお母さんは負っているのです。 それを心のどこかで意識し続けてください。
 往々にして耳にする事ですが、ぐずる子どもを前にすると、お父さんは面倒になっ て投げ出すか「子どもの事はよくわからない」と言って身をかわすようですが、 それをやってはだめなのです。そこで悪戦苦闘しながら子どもとの関係づくりをしてほしいのです。
 女性は子どもを産めば母親になります。 そして、どんなに辛くても子どもを投げ出すわけにはいきませんから、子どもと向き合い毎日世話をして、少しずつ母親とし て成長していきます。 男性の場合は、 意識して子どもと関わらなければ名前だけの 「父親」になってしまうのです。

「親の言うことを聞く子にする」ということは
 まず、 子どもの気持ちを理解し、子どもが安心して身を委ねる事が出来る相手になる事です。 つまり、「どうしたのかな」、「どうしてやればいいのかな」と言うように子どもの心に寄り添ったうえで、事の善し悪しを教える事なのです。でもこれは子ど ものいいなりになるということではありません。
 声を荒げる事でも、くどくど言い聞かせる事でもなく、当たり前のこととして端的に「こうすればいいんだよ」 「こうすることなんだよ」と伝えればいいだけなのです。
 そして、揺るがないことです。人のせいにしない事です。 「お母さんに怒られるか ら」とか「先生に怒られるから」などというのはもってのほかです。
 親の本気さ、ゆるがない強さ、子ども自身が「自分を大事にしてくれている」と思える大きな温かさ、それらを子どもが感じられれば、自ずと子どもは親の言うことを、聞く子どもとして育ちます。
 幼児期に育まれた「親との心が通い合う確かな関係」は、小学校、中学校、高校 と進んでも、その子を支える力になって行くと思っています。
 思春期を迎えても、親子で会話が楽しめる関係は、この幼児期に発芽するのだと心に留めて置いてください。

 毎日忙しく、疲れているお父さん達、子どもと時間を共有し共感する関係を作り たいと思っていても「あそんでやる体力がない」 「時間がない」状態の方もいらっし ゃることでしょう。子どもは、もちろん一緒に動き回って遊んでくれたら喜ぶかもしれ ませんが、心のつながりと言うのはそれだけではないのです。
 目線が大事なのです。 「愛おしい」と言う思いを持ちながら自分を見つめていて くれる人の存在、それだけでもいいのです。
 お母さん達には、よく話すのですが 「振り返ればそこには母の眼差しがある」 それが、子どもの心を安定させるのですと。

 最後になりますが、お父さんは、お母さんの相談相手、 話し相手になって下さい。
 子育て情報を、お母さんから受けながら、二人の子どもをどう育てるか、どんな子に したいかなど「二人の間に生まれた、可愛い我が子の育て方」を共通にしながら、二 人で育てていると言う実感が持てるようにしてください。 それは、直接子育てにあ たっているお母さんの心を温める事になります。また、 園通信、 学級通信にも目を通 して下さい。そうすることで、 我が子をみつめる“目線”が育まれて行くはずです。そこから生まれる、「お母さんの心の安定」こそが、 子どもにとっては何より大事な ものなのです。

 話し終わってドドッと疲れました。45分程の内容でしたが、 お父さんたちの反応が あまりなかったからです。今は、お父さん達の役に立つ話とはどんな内容なのか一 年かかって考え続けようと思っています。

見学会予約・問い合わせ先
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