第18回 竹馬作りは、父と子を「竹馬の友」にする~天野先生のひとりごと~

 1月16日(土)、風組(年長)の父親を対象にして竹馬講習会を開いた。
 一昨年、竹馬に乗れない父親たちの存在に気がついて積極的に対応することにしたのだ。

 風の谷では、親子の関わりをより確かなものにしたいという思いから、意図的に親子が関わる機会を作ってきている。
 鳥組(年中)では、「缶ぽっくりの紐作り」。
 お母さんが編んでくれた紐を缶につけて「缶ぽっくり」にする、という取り組み。紐を編むことで、お母さんの「缶ぽっくり」への関心は深まり、親子の会話が増える事をねらっている。
 風組(年長)になると、羊の毛をお母さんと一緒に糸に紡ぎ、それを横糸に使って織り物をするという取り組み。親子で、糸を紡ぎ、それを織り、「ポシェット」に作り上げていくという共同作業を通して、創り出す喜びを母子で共有することをねらっている。

 幼稚園への送迎は母親が行い、月一度行われている学級ごとの懇談会で教育内容やそれに取り組む我が子の姿などを見聞きしていることもあって、母親の子どもへの理解は深いものになっている。
 しかし、父親はその機会がなかなか持てない事もあって、大ざっぱな捉え方になっている。これは子ども側から見ても同じようなものであろう。
 そこで、父親の姿を、子どもたちの中に実感の持てる確かな存在として位置付けるにはどうしたらいいかと考えて来た。そして、その一つの方法として、お父さんによる「竹馬作り」になったのだ。竹を家に持ち帰って、子どもの前で作ってやり、乗って見せて「お父さんってすごい!」を実感させてほしいというのが私の思いだった。

 ところがここ数年、お父さんが作ったという竹馬が減ってきた。また、お父さんが作った割には直ぐに壊れてしまうものが増えていた。
 「どうしてだろう」という思いを持ちながら数年を過していたところへ、“竹馬に乗れないお父さんたち!”の出現で、お父さんだからと言って竹馬が作れるわけではない、ということに気がついたのだ。

 そこで、幼稚園で「講習会」を開き、作り方と乗り方の指導をすることにしたのだ。
 最近の竹は、節がしっかりしていないため、針金で節を補強するところからスタート。足台を竹に固定するためには、針金をきっちりとゆるまない様に巻きつけることがポイントになるのだが、一番難しい所でもある。教員たちも事前に練習して、この日は父親たちのサポートに回った。
 竹馬が出来上がると、そこからが私の出番となる。竹馬に乗ったことのある経験者も、青竹で作った竹馬に乗るのは初めてという人が多かった。
 乗った経験のある人もない人も、一様に「竹馬の乗り方指導」から入った。
⑴ 高さに慣れるために足台に乗る。
⑵ 足台の上でつま先立ちになる。その時竹と一体化するために胸とお腹は竹に添わせる。
⑶ 竹が揺れないために胸の上(おっぱいの上)で肘を上げる形で竹を持つ。
⑷ 前傾姿勢に慣れる。(補助員に支えてもらいながら前傾姿勢を繰り返す)
⑸ 竹馬からの降り方を学ぶ。(降りたい時に降りられることで怖さが軽減される)
 お父さんたちは、こちらの指示に従って、真面目に取り組んで行く。教える方も教えを乞う方も真剣そのもの。
 「おっぱいの上で竹は持って!」
 「お腹が竹から離れているでしょ!」
 「恐がっているからお尻が出っ張っちゃうんだよ!」
 「怖がらないで!」
 「私が支えているんだからもっと信じてやりなさい!」
 叱咤激励の言葉が飛び続ける。
 大人も子どもと同じ指導内容で臨んだ。しかし大人の方がやっぱり言葉を理解して行動に移すのは速い。
 「わあー歩けた!4歩歩けたのだから次は6歩ね。頑張ってね!」
 歩けるようになったお父さんたちも嬉しそうだが、教える側も半端でなく嬉しい。ついつい興奮して、手を叩いたり跳びはねたりしながら喜んでしまう。お父さんたちと教師陣がまさに一体化して喜びあっている図である。
 「こんなに褒められたのは初めてだ!」と嬉しそうにいうお父さんたちの声に、褒めた覚えのない私は「えっ、褒めたっけ?」と一瞬思ってしまう。そして、一所懸命努力するその姿が嬉しくて、見たままを言葉にしていただけなのに、人はそれを「褒める」ということかと思った。

 30分足らずの時間で、この日参加したお父さんたちは全員が竹馬に乗れる様になった。
 最後に「竹馬という教材」についてお父さんたちに話をした。
 竹馬に乗れるという技術を獲得したらおしまいなのではなく、さらに技を高めて行く面白さにも挑戦していくことを重要視している。
 乗れるようになったら、花いちもんめ(前後に歩く・片足を上げる)、どんじゃんけん(グー・チョキ・パーの足じゃんけん)、竹馬サッカー(ボールを蹴りながら相手とボールを取り合う)、階段の上り下り、坂の上り下り、そして最終段階では竹馬縄跳びなどである。 遊びの中で技を高め、自在に竹馬を乗りこなせる巧みな体と、高みを目指す心のありようが大切である。
 そんな力を風組(年長児)のこの時期に育てることは、その子の生き方にも影響するのではないかと思っているのだ。

 自分の手で作った竹馬に乗って、みんなと遊んだお父さんたちの笑顔は最高の「教育の成果」だった。

 2016年1月18日

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