第10回 「立派な大人」って?~天野先生のひとりごと~

「大人」になってずいぶん時間が過ぎた。
いくつから「大人」になったのか分からないが、現在68歳だから間違いなく私は大人だし高齢者だ。
小さい頃、「大人」とは、知識が豊富で、包容力があって、仕事を一生懸命する人と言うイメージを漠然と持っていた。大人になれば自分もそうなれるものと思っていた。だから「大人」になるのが楽しみだった。
しかし、いくら歳を重ねても「大人」になった実感がない。
年齢的にいえば、姿かたちから言えば、私は間違いなく立派な「大人」なのだ。

子どもの頃、自分を取り巻く世界には、意地悪な子、口汚い子、乱暴な子、威張る子、偉そうに振る舞う子、臆病な子、ずるいことばかりする子、などなどいろんな子がいた。その子たちの中に在って、なぜか私は「大人の世界はこんなではないはずだ、早く大人になりたい」と真剣に思っていた。
ところが20歳を超え、30歳を超え、40歳を超え、50歳を超えて、60歳に入って周りを見回しても私が思い描いていた「大人」の世界はどこにも見当たらない。
電車の中で、バスの中で、スーパーマーケットの中で目にする大人たちの姿は、昔想像していたものとは大きく違い、昔の子どもがただ大きくなっただけではないかと落胆することがしばしばである。
私が思い描いていたのは「青い鳥」の世界であったのかもしれないと、最近は思えるようになってきた。人間の集団って、そう大きくは変化成長はしないのかもしれない。

あの、「大人」に抱いていた期待は一体何だったのだろうか。
そんな思いを持ちながら、我が身を振り返ってみると、私自身も「立派な大人」にはなれていない。生活経験を積んだだけ生活知識は増えたし、相手を理解する力や見方も多少幅が広がったような気がする。しかし、これは主観であって、本当にそうかどうかはわからない。
相変わらず、人には厳しいし攻撃的だし寛容性がない。子どもの頃に目指していた大人像からはほど遠い。
68歳から「立派な大人を目指す」というのも何だか変だけれど、せめて子どもの前に立つ時は、憧れてもらえるよう、ちょっと頑張って立派な高齢者になろうと思う。

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