第6回 あつい「日本の夏」、忙しい「風の谷の夏」~天野先生のひとりごと~

2014年の8月も終わった。
今年の夏は、「あつい夏だった」だけではなく「やけに忙しかった」夏だった。
風の谷幼稚園の夏休みは、土日を挟んで1週間。それに、年休を加えれば2週間近くは何とか「夏休み」にできるはずが、私の場合、今年は3日間の「夏休み」で終わった。

子どもたちが豊かな内容の教育を受けることが出来るためには、直接子どもたちの前に立つ先生たちが、豊かな経験と感性を持っているのが必須条件となる。また、「風の谷の教育」に対しても理解と共感を持って臨めるよう教師達に要求している。

そのために、今年は経験年数の少ない教員集団であることから、園内での実技研修(絵本の指導・紙工作・木工作)を重点に研修内容を組むことにした。また、教員としてぜひ読んでおいて欲しい本として『母という病』『ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか』『劣化する日本人』を指定し、読書感想会を開いた。さらに、歴史に興味関心を持てるようにと京都研修も行った。
実技研修の方は、子どもの立場にたち、作業をするなかで、頭の中がどんな風に動くか、どんな力が育つかを自分の体を通して考えることを要求した。

読書感想会は、それぞれが感じたままを出し合った。
しかし『母という病』は、母との関係によって人格が歪んでしまう子どもたちの悲劇に言葉がなかなか見つからないと言った感じだった。そして、風の谷が主張している母子の関係づくりが、何よりも大事なことなのだと再確認しあった。残り2冊の本に対しては、それぞれが「自分では気がつけない自分の思考の劣化が恐ろしい」というような発言が多かった。対策を真剣にあれこれ考え合ったものの当然結論は出ず、自分達が置かれている現状をしっかり認識して、便利さに流されることなく日々を過ごすことなのだろうと言うことになった。

京都研修の方は、仁和寺と東映映画村(太秦)のバックヤードに焦点を合わせての見学だった。
仁和寺の方は、二人の「お坊さん」が半日かけて案内をして下さった。暑い中、墨染の衣を身にまとい汗を流しながら案内して下さる姿には頭が下がる思いであった。
2万坪もある敷地の草むしり、草刈り、建物の清掃、修復などに心を配りながら、国宝及び国宝級の品々をどう維持管理していくかの困難さをお聞きした時には表面的にしかものを見ていなかった無知な自分を恥じた。
朝6時から国宝のお堂の中での「お勤め」にも参加した。早朝の清澄な空気の中に流れる読経の声に心が浄化されていく様な感覚を味わった。
ところが私は気付かなかったのだが、数人の僧侶が声を合わせてする読経に、微妙にずれがあってそれを合わせるために、僧侶たちは呼吸の深さで調整していたと言う先生がいた。
そこで気がついたのだが、木魚や鈴なしで読経する難しさである。一緒に読経するお坊さんの息が合って一つの和音になるには、それなりの時間が必要なのかもしれない(この時はあちこちのお寺から仁和寺に赴任してきたお坊さん集団だったようだ)。
来年、仁和寺で研修を受けたいと思った先生が複数いた。そして、その申し出に「何ともの好きな!」と信じられないと言った表情をしたお坊さんたちだった。風の谷で鍛えられた先生たちは「怖いものなし」になっているのかもしれない。
仁和寺の御室桜は有名。今回は夏草の中に身を置いていた桜たちであったが、一度は目にしたいものだ。

次に訪れた太秦の映画村のバックヤードでは、小道具、大道具がいっぱいなので、みんなの目がきらきらしていた。見きれないほどの襖絵、戦いの時に使う背旗、墓石、灯篭、当時の看板などなど、その材料と作り方に興味津津。
「劇の会」で使う小道具、大道具に活かしたいと真剣そのもので見て回る先生たちだった。あつい中、あちこちのスタジオを開けて特別待遇で見学させてくださったスタジオ幹部に感謝感謝であった。

そして、もう一つの目的であった、宿での「八瀨のかま風呂」体験。
平安時代の昔にあった「かま風呂」。復元されたものだが、風組にお風呂の話をする時に、実感を持って伝えるためには先ず、先生たちの入浴経験が必要。
まんじゅう形のかま風呂の中に入るとムシロが敷いてあり、その上に横になる。熱い蒸気が充満していて体中から汗が吹き出す。充分汗をかいた後は外に出てぬるま湯で体を洗い流す。平安時代の紫式部も藤原道長も入っていたのかな?と想像するのだが、どうにも上手く想像ができなかった。
風呂の歴史には興味がある。
かま風呂、五右衛門風呂、砂風呂、ドラム缶風呂など。私が小さかった頃は桶で出来た風呂だった。
子どもたちに実感を持って話しをするために、できるものならどれにもこれにも入っておきたいと思う。どこかにありそうな五右衛門風呂だが、なかなか見つからない。
ちなみに、インターネットで風呂の歴史を調べたら、6世紀仏教と共に中国から伝わってきたとの事。
毎日入浴する習慣が全国的になったのは、家庭内へのガスによる瞬間湯沸器や水道の普及が進んだ高度経済成長期以降のこととあった。
そういえば、私が小学生だった頃は2~3日に1度の頻度で風呂を炊いていたし、風呂を沸かさない家では「もらい湯」と言って、他家に入りに行っていたことを思いだした。

子どもたちが、様々なものに興味関心を持って成長していくために、先生たちが豊かな体験を積み上げられるようにアンテナをはりめぐらし、その機会を作る努力をしていくのが私の役割だろうと改めて思った2014年の夏だった。

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