子どもが夏休みに入ってから、神奈川県伊勢原市向上高校の野球部員が「研修」として風の谷を訪れた。
幼児教育関係者の研修ならば、相手の希望を聞きながらその研修内容は簡単に組み立てられる。ところが、相手が高校生、それも野球部員となると全く見当がつかない。監督の平田先生からは特に注文は出ていない。それだけに余計「どうしたものか」と考え込んでしまった。
そこで、思いついたのが次の様なこと。
⑴ 風の谷幼稚園の教員たちの夏季の仕事を一緒に体験する。
仕事の全体像を理解し、受け持った仕事を効率よく行うために段取りを考え、その所要時間を予測してそれを目標に作業を進める。
一緒に作業をするメンバーとは声を掛け合いコミュニケーションを図りながら活気を持って進める。
作業内容は、1回目に来た研修生は3カ所に分かれて1500坪程の雑木林の整備と畑の草刈りと、草むしり。
2回目に来た研修生は6教室のワックスはがし。
教員も3グループに分かれ、作業の仕方を伝え時間を決め、働き方を伝えるという役割を持って取り組んだ。
⑵ 教育活動「ことば・文字」のなかの“なぞなぞ”の授業を受ける。
教師が出すヒントを手掛かりにしながら“そのもの”を当てる授業。
仲間が出す質問とそれに応える教師の回答を聞きながら、必要な情報と不必要な情報に分け、確信できた時に「答え」として発表するといったもの。
仲間の発言を聞きながら、情報を取捨選択し物事に迫るというねらいをもった活動なので高校生にも充分通じるのではないかと考えたのだ。
⑶ 集団遊び「開戦ドン」をする。
2グループに分かれての遊び。
ジャンケンをして勝った方に相手を捕まえる権利が発生するので負けた方は、捕まる前に陣地に戻る、という遊び。
瞬時の判断で行動する事を要求される遊びで、年長児の遊びとして、一学期に実践しているもの。
また、勝つためにチームで作戦を立てることが要求される。一人ひとりの動きは様々であっても、仲間の動きと相手の動きを見ながら自分の動きを決めて行く遊びなので、野球部員にも何らかの意味を持つのではないかと思ったのだ。
⑷ 研修を受けての感想と教員たちとの交流。
1回目に来た高校生たちとの交流が不十分であったことから、2回目は単なる感想を話すのではなく、的を絞って「野球部員としての自分の課題とその対応策」を話してもらうことにした。
野球部員たちは、日頃から自分の課題を自覚的に受け止めているせいか、対応策に具体性を欠く子もいたものの臆することなく語ってくれた。
「課題と対策(その課題を乗り越えるための努力の具体的な方法)」という考え方は、風の谷の教員たちにも、子どもたちにも常日頃から言っているもの。
ともすると「頑張ります」という言葉でその場をやり過ごすことが多い生活の中で、具体的な行為と結び付けて考えるようになれば、必ずその課題は乗り越えられると思っているからなのだ。
以上4つの内容を研修内容として行ったが、これで良かったのかどうかはわからないが、引き受けた私たちにはとても貴重な体験となった。
作業内容が異なる3グループに分かれて作業をしたのだが、グループ(4~6人)によって作業時間と作業後の達成感に大きな違いが出ていた。
野球部員を引き受ける側として、3つのグループにはリーダー的な役割を負う教員を決めておいた。
そして、不慣れな場所で不慣れな作業をする野球部員なので、やるべき作業内容をはっきり提示し、見通しが持てるように指示を出すようにしておいたのだ。
ところが、3つのグループのうちの1グループに問題が出た。
指示を出すべき教員が下を向いて黙々と作業をしているため、高校生たちは何となくその場にいて手を動かしてはいるものの、作業に熱が入っていない。結果、終了時間になっても作業は終わらず、他グループからの助けが必要となった。
ここで改めて、“人を生かすも殺すもリーダーのあり方なのだ”と思った。そして、声を掛け合うこと(作業の進行や自分の動きに対する報告のようなこと)が一体感を生み活気を生み出して行くことも分かった。
これは、対象者がこどもであればあるほど先生の指示が大きく影響していくことになる。的確に指示を出し、“意欲的に行動する子どもたち”にするには教員たちの力が問題になる。その力をどうやって育てたらいいのかと、より深く考えるようになったのだ。
また、野球に関しては、全く素人の私だが、野球が強くなるには一人ひとりが確かな自分を持って、技術を高め、向上する充実感を感じながら甲子園を目指すことなのかもしれないと思う様になった。
あの部員たちが、今後どう成長していくのか、力をつけて行くのか、がぜん興味が湧いて来ているので向上高校の野球の試合を出来るだけ見に行きたいと思っている。
それと、向上高校野球部員の研修を引き受けたことで、幼児教育との共通性も感じとても参考になったのだ。