18. ラグビーで生まれる親子の絆(ラグビー・後編)

今日は鳥2組との対戦。朝からやる気満々でした。
(注:年中児は鳥1組と鳥2組の2クラス。それぞれが赤・黄・青・緑の8人1グループとなって対戦する)
まずは赤グループからです。「絶対勝ってね!」という仲間たちからの声援を受けつつも、2組が1点、2点、3点と点数を重ねていくにつれ、気持ちが負け始める子どもたち。見ている側は「睦ちゃんだけじゃ勝てないってば!」「朋紀走れ! 和希、やる気出しな!」と応援を通り越して少々怒り気味。結果は負け。
そして、続く2回戦目は黄色グループです。相手がボールを持ってマットまで走り出すと、必ず追いかけてなんとか止めようと飛びつく葉の佳ちゃん。ほかの仲間たちもボールを取ろうとだんご状態の中に入っていくのですが、瑞稀ちゃんと翔太くんは口ゲンカ……。「翔太! ちゃんとやってよ!」と瑞稀ちゃんです。
見ている1組の仲間たちは、「そんなこと言ってる間にゴールされちゃうってば! 翔太! ふざけないでよ!」と、身を乗り出して声をふりしぼります。またまた結果は負けです。
負けて戻ってきた黄色グループも含め、みんなに「大事なことは、8人の仲間と力を合わせること。そして、最後まで絶対諦めないこと」と声をかけ、3回戦目は青グループを送り出しました。
鳥1組 学級通信 「おおばこ」より

「絶対諦めない!」という仲間からの力強い言葉。その言葉に奮起し、勝利のために力を合わせて努力していく。

さて、前回に引き続き「ラグビー」の後編をお届けしよう。今までは8人一組になっての「鳥1組内での戦い」だったが、今回は32人が一丸となって「隣のクラス」である鳥2組と戦う。子どもたちのテンションが上がることはいうまでもない。

「絶対に勝ちたい!」 そんな気持ちから仲間にも厳しい声が飛ぶ。その声を聞いていると「チームプレーで勝つために果たすべき役割を果たせ」という味方への声援のみだ。どこかの国の国会と違って、敵に向かって本題とは関係ないヤジが飛ぶことはない。

そして、試合は新たな展開へと進んでいく。再び学級通信を見てみよう。

勝つためには諦めない!

するとこのグループ、どんなにおさえつけられても転ばされても、泣きながら立ち上がってボールへと向かいます。相手におさえこまれると、仲間を呼びパスでボールをつなぎ、3点、4点と点を重ねます。2組も負けずと2点、3点……。いい勝負です。
そして最後はだんご状態の中、「諦めない!」と仲間同士言い合いながらボールを取り、怜那ちゃんがゴール。「やったぁ!」と跳びはねる青グループでした。
続いて緑グループ。あかねちゃんがいつもと違います。ボールだけを見て、取ろう、取ろうとしているのです。「いいぞー! あかね!」仲間たちの応援がさらに力をくれるようです。千桜・十萌・和子・竜治・美里ちゃんはそれぞれがボールに食らいついていき、奎吾くんは、おさえこまれては泣き、美里ちゃんの「諦めないの! 最後まで!」という言葉で立ち上がる――を繰り返します。そんな奎吾くんを見て大空くんは、「奎吾をおさえる相手をはがす」と行動にうつしながら、「奎吾、今だ! 行け!」と助けるのです。

そして最後、1点取ったほうが勝ちとなると、ものすごいボールの取り合いです。はがし、はがされながらボールをつかんだのは奎吾くん。しかし服の裾には相手チームが。それに一早く気付いたのは大空くんでした。「奎吾、行け! 行け!」と言いながら相手チームを奎吾くんからはがします。そして、大空くんのおかげで相手チームを振り切れた奎吾くんが、5点目を入れて勝ったのです。
鳥1組 学級通信 「おおばこ」より

子どもたちは「勝利ために協力していくこと」を、体ごと学んでいく。

この文面からも、子どもたちの白熱ぶりが伝わってくる。(ラグビーに詳しい読者の方もいらっしゃると思うが、風の谷幼稚園でのラグビーは心の育成が目的であり、ルールも緩やかに運用しているので、ボールを奪いに行った相手をはがす行為はOKとしている)

 子どもたちにしてみれば、試合中はまさに「有事」の状態。必死になって冷静さを欠いてしまいそうな状態でありながらも、仲間を励まし、その言葉に奮起し、そして力を合わせて勝利に向けて努力する。こんな経験ができるのも全身がぶつかり合う団体スポーツ・ラグビーならではの良さだろう。

子どもたちの口々から飛び出す「諦めない」の力強い言葉。そして、試合はいよいよクライマックスへ進んでゆく。再び学級通信を見てみよう。

喜ぶ仲間たちの元へ戻って、「協力するっていうのは、こういうことだよね」と言葉にし、その認識は共通のものに。そして、最終戦はグループを崩して先生が8人のメンバーを選びました。
「やりたい! やりたい!」と何人もの子が手をあげます。そこで、「先生は、最後まで諦めない子を選ぶ」と指名していきました。
葉の佳・武也・和希・和子・眞由・令華・天音織、そして奎吾。「諦めないからやりたい!」と言っただけあって目が違いました。
途中、鳥2組の萩原先生に「誰かに奎吾を止めさせて、動けなくなるくらい!」と耳打ちし、鳥2組の海来くんと賢河くんがおさえこみました。海来くんも今までにない頑張りだったそう。それだけに奎吾くんは泣き出します。しかし、「気持ちで負けない! 諦めないって自分で決めたんでしょ!」と声をかけると大きくうなずき、それ以降はどんなにおさえられても必死に振り払おうとする姿があったのでした。
結果、4対5で鳥1組の勝ち!
対決が終わった瞬間、「ぼく、諦めなかった。だからみんなで勝てた」と言う奎吾くん。見ていた人たちからも、一人ひとりの頑張りを認め合う言葉がありました。
もうすでに子どもたちはパスを出し合ったり声をかけ合ったりしているだけに、気持ちの面を意識させていきたいと思っています。
鳥1組 学級通信 「おおばこ」より

このエピソードからわかるように「協力」の言葉の意味をしっかりと実感として身につけていく子どもたち。また、先生の役割にもご注目いただきたい。密着レポート第7回「失敗を諦めず、悔しさを感じる子を育てる」で紹介したように、風の谷幼稚園では「悔しい」という気持ちが成長の原動力と考えている。そこで、担任がわざわざ隣のクラスの先生へある子どもに悔しい思いをさせるため「おさえこみ」を頼むこともある。それは「その子が成長するためには、あえてそのような状況をつくりだし、それを乗り越える経験を積ませる必要がある」との判断からだ。

話は一寸横道にそれるが、このきめ細かさはラグビーに限った話ではなく、すべてのカリキュラムにおいても同様だ。例えば、密着レポート第1516回「なわとび」においては、

「いつも仲間の話にツンとした反応をとることが多い○○ちゃんにはあえて跳び方を先生が教えない。そして、仲間からアドバイスを受け入れざるを得ない状況をつくりだそう」

「この前の木工作で自信をつけてきている○○くんは、早く跳べるようにしてあげてさらに自信を深めさせよう」

仲間と協力してラグビーに取り組んだことで、互いの心を通い合わせ、成長していく。

といった具合だ。これらはあくまでもケースバイケースの判断だが、その結果、子どもたちが着実に、そしてたくましく育っていく様子を目の当たりにすると、教育とは意図をもった環境と機会の創造であるということを痛感する。特に幼児期においてはその重要性が高いのである。

そして、ラグビーを通じて全身で痛い思いや悔しい思いをした子どもたちは、仲間とともにそれを乗り越え、また一段とたくましく育っていく。

親も一緒に
「うりゃー、どけー!」

 さて、子どもたちのドラマはこのあたりにして、最後にラグビーにまつわる親たちの様子も紹介しておこう。

風の谷幼稚園の教育実践上の柱に「親も一緒に」という方針がある。(密着レポート第3回「幼児期の食生活と大人の責任」参照)その方針にのっとって、学期ごとに行われるお楽しみ会では親も子どもたちと同じカリキュラムを体験することになるが、年中児の3学期には親たちもラグビーに挑戦する。(ルールは子どもたちと同じである)

そのときの様子を、親と先生の間で交わす「れんらくちょう」から見てみよう。

●ラグビー楽しかったー!!
お楽しみ会お疲れさまでした! ラグビー、楽しかった―! 子どもたちも参観で観た時よりもさらにラグビーらしくなっていて、点もいっぱい入るし見応えありました。そして親ラグビー、最高でしたね。あれほどみんなでぶつかり合えるのは信頼関係がなければなかなかできませんよね。子どもたちはシラーッとしてましたが……。和希にも「お母さん、点入れたよ! 見てた? 」と聞くと「ほーっ、すごい!」って……。「おーい! 見ててよ」って感じです。日ごろ主婦をやっていると、なかなかここまで体を動かせないので本当にいい経験です。

●何でも経験してみるものだなぁ
ラグビー、やって良かったです。何でも経験してみるものだなぁとつくづく感じました。ラグビーボールはどこへいってしまうかわからないこと、取り合いになったときに上からどんどん誰かわからない手が出てきてどのようにパスをしようか悩んだこと、大根のように引き抜かれたこと。短いゲームの間に色々なことを考え、色々な感情が出てきました。子どもたちは良い経験をさせていただいているのだなぁととってもうらやましくなりました。お母さんたちはすごかったけれど、本当に楽しかったです。

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