26. 電車ごっこで自動改札? 年長の発想力の秘密(電車ごっこ・前編)

 昨日は「久しぶりにえのき広場に遊びに行こう!」と子どもたちに声をかけて、広場に行きました。『はじめの一歩』をして遊んでいたのですが、頃合いを見計らって、「おっ、いいモノがあるぞ」とツルをズルズル・・・。(実は、朝のうちに電車にちょうど良さそうなツルを見つけて、切っておいたのです)
ツルを輪っかにして、子どもたちの目に入るようにと歩いていると、「なぁに? ─あ、電車だ」と葉ちゃん。「乗る! 乗る!」と元くん。「私も!」「僕も!」と、あっという間に電車は大混雑。急遽、もう1本ツルをみつけ、電車を増やしたほどです。
すぐに、「切符売り場はこちらでーす」と健くん、和俊くんがやり始め、落ち葉が切符へと早がわり。あんまりたくさんのお客さんが乗ってしまうと電車が動きにくくなってしまうため、「この電車4人乗りでーす。もう満員なので後にして下さい」と和輝くん。
運転手、車掌が入れかわり立ちかわり交代して、最後は“幼稚園行き電車”に。ジャングルコースでもう1本ツルを見つけて、3台の電車で幼稚園へと戻りました。
子どもたち「明日の朝もやろう」「楽しかった」と、電車ごっこムードになり始めています。
さぁ、これからどのように展開していくのか、楽しみに見守っていてください。
風2組 学級通信「麦」より

電車ごっこの教育意図とは?

えのき広場…風の谷幼稚園に隣接する広場。先生や父兄が雑木林を開墾してつくった自然あふれる子どもたちの遊び場。その面積は、なんと1400坪にも及ぶ。

年長児クラスの12月も近づいたころ、風の谷幼稚園では「のりもの」(「電車ごっこ」などを含む総合活動全般の総称)のカリキュラムが始まる。冒頭のエピソードはその初日の様子だ。先生が早朝に「仕込み」を行う様子が目に浮かんでくるようだが、子どもたちはその意図通りに反応し、「のりもの」はスタートする。この活動に秘められた教育意図を2回に分けて紹介していこう。

嬉しかったことは人にもしてあげよう!

広場で子どもたちが“見つけた”ツルがきっかけとなって始まった「電車ごっこ」。その翌日にはその遊びが一段階、高度になる。この様子を再び学級通信から見てみよう。

「ねぇ、みんなで電車ごっこやらない?」ともちかけると「いいよ、やろう」との返事。すぐに「じゃあ切符が必要だよ」「ホームも」「お金も」「あ、お金はビールのふた(王冠のこと)がいいよ。もってくるね」と必要だと思われるものが、ポンポンあがります。そして思い出したように「そういえば、前の風組がやってくれたよね」と真くん。
「そうだったね、みんな去年乗せてもらったんだよね」と話すと、「花組と鳥組も乗せてあげたいなぁ」と二奈ちゃん。「でもまだダメだよ、切符売り場とかもなんにもないじゃん」と悠翔くん。花、鳥組を乗せるなら、ちゃんと道具も揃ってバッチリになってから、という思いのようです。
子どもたちからあがったのは次のようなものでした。

・駅、ホーム(黄色い線も必要)
・切符売り場、切符
・信号
・改札
・お金(ビールのふた)
・駅員さんの帽子
・線路、踏み切り
・お店
「道路に信号はあるけど、電車の信号もあるの?」と、とぼけてちょっと驚いた様子で尋ねると「あるよ! ホームから見えたりするし、出発の時とか信号を指さして合図するんだよ」と健くん。「そうそう、見たことある」とみんな。
“お店”に関しては、「電車から降りたら行く場所が必要でしょ」という二奈ちゃんです。(これに関しては、やっていくうちに役割も増えていくので“あること”にしようと考えています)
そして必要な役は、運転手、車掌、駅員ということで、第1回目のこの日は、各班でそれぞれの役を決めてやることにしました。
風2組 学級通信「麦」より

密着レポート第8回「年長が年少に優しくできるのはなぜ?」などでご紹介してきたように、風の谷幼稚園では年少児から年長児までが一緒に行動する「たてわり活動」を積極的に取り入れている。この理由は、「人に優しくしてもらった経験がある人は、他人にも優しく振る舞える」という天野園長が長年の教育現場で得た結論に基づき、その好循環を創り出すためである。

そして、実際にその好循環は風の谷幼稚園の伝統として定着してきている。その証拠に「電車ごっこ」という新しい遊びに取り組み始めるとき、すぐに自分が年少・年中時代に年長児に遊ばせてもらったことを思い出し、「その楽しかったことを今度は自分がしてあげたい」と考えるところが、“あの風の谷の子どもたち”なのだ。

自分たちで必要なものを考え、作り、準備を進めていく。今まで培った豊かな発想力が全開となる。

さらに、まず子どもたち自身に電車ごっこで必要なものを考えさせるのも、風の谷流だ。子どもたちが活動に対して興味を持つように、先生たちが「仕込み」や「お膳立て」を精力的かつ綿密に行うことは再三ご紹介してきた。しかし、あらゆるカリキュラムは「必要なものを子どもたち自身に考えさせる」というところからスタートする。これは、「前提を与えられなくても、自分で条件設定ができる」子どもを育てることにつながっていく。

そして、もうひとつ。これは年中児の「大型どうぶつ作り」(密着レポート第13回)でも紹介したが、子どもたちに「ポイントを絞って物事を観察できる力」を育てることも大切な目標だ。実はこの後に、実際の駅を見学に行く。そして、事前に自分たちがイメージしたものが現実と合致しているかどうかを検証する。このプロセスを繰り返し積んでいくことで、自分で仮説を立て検証し、それが正しければ実行し、間違っていればそれを正して実行をするという思考サイクルが体に刻まれていく。

無いものがあれば
作ればいいじゃないか!

さて、子どもたちは「電車ごっこ」を通じて、さらに多くのことを学ぶ。この様子を再び学級通信から見てみよう。

さて、子どもたちの間で議論になったのは、自動改札か、駅員が切符を切るのか、ということでした。
「切符を買ったらさ、どこを通ればいいの?」という和輝くんの言葉をきっかけに、
「あのね、機械の中に入れると自動で出てくるんだよ。そうすると、切符に穴があいてるの」と悠くん。「だから、その自動改札を作ればいい」という主張です。
こちらとしては、電車ごっこを通して一人ひとりが自分の役割を果たすことで、遊びがより楽しく展開するんだ、ということと、お互いに関連を持って動くことの大切さを感じさせたいと考えているので、“切符を切る駅員”も役割として位置づけたいと思っていました。なので、「自動で出てくる機械なんて作れるかなぁ・・・」と言ったのですが、何せ風の谷生活を通して様々な物を自分たちの手で作り出してきているんだという自信からか、「大丈夫だよ。ダンボールをカッターとかで切ってさぁ・・・」と作り方までをも考え始めてしまいました。
大慌てで「でもさぁ・・・」「すっごく難しいんじゃないかなぁ・・・」とあれこれ1人で格闘する私。それを知ってか知らずか「でも、自動改札じゃなくて、駅員さんが切符を切ってくれる所もあるよ。自動改札がなかった時は、みんなそうだったしね」と和俊くん。まるで助け舟を出されたような気持ちでした。そして「そういえばさ、前(鳥組の時)に乗せてもらった時は切符を(風組に)切ってもらったよ」と大城くん。
両方の方法が出たところで「じゃぁ、風2組の電車ごっこではどうすることにする?」と聞いてみました。すると、ほぼ全員が「切符を切る」という返事。自動改札派だった人たちも納得し、改札には駅員が立つことに決まりました。そして、「ここが改札ですってわかるように」改札を作ることにしました。
風2組 学級通信「麦」より

自動改札機だって作れるはず。「前向きな思考力」は確実に身についているようだ。

子どもたちは「電車ごっこ」に必要なものは自分たちで作る。3歳で入園したときから「自分の手はすばらしいものを生み出せる手だ」ということを日常的に教えられ、年齢に応じてさまざまな道具の使い方を習得してきた年長児にとっては、「無いものがあれば、自分で作る」というのは、ごく普通の感覚のようだ。

ここでは、「自動改札機」までも自分で作ろうとした子どもたちに、先生が驚いてしまったわけだが、このたくましくも頼もしい発想は“嬉しい誤算”だったかもしれない。

「あれが無い。だから、これができない」という横着の言い訳は、大人の世界でも子どもの世界でもよくある話だろう。これは人間の性(さが)かもしれないと思いつつも、幼児期の教育次第で、常に問題を解決に向かわせるポジティブな思考力と行動力は後天的に育てられる。この事実を目の前の現実が証明しているようだ。

これだけでも十分と思ってしまいそうだが、子どもたちが「電車ごっこ」で学ぶものはこれに留まらない。それは、天野園長が現代社会の大きな問題として捉えている「人と人とのつながり」を感じられる心だ。そして、人とのつながりを確固たる絆に深めていくためには、「言葉」を使いこなせる力が欠かせない。次回はこの内容について、紹介していこう。

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