28. 「5歳児に刃物」は危険?

去年の風組が作った“かるた”を楽しんだ後、今度は自分たちの“風2組かるた”を作ります。風2組ならではのかるたができあがるといいなぁと、今からわくわくしている担任です。
続いて取り組むものにゴム版画があります。よく研いである彫刻刀を使って、集中力と緊張感を持続させながら取り組んでいきます。
ポシェットは、冬休み中に親子で織った物に、三つ編みで編んだ肩ひもを付けたら完成です。完成したら、ポシェットをさげて散歩に出かける予定です。
そして、お父さんに作ってもらう竹馬。昨年風組が乗っていたのを興味深そうに見ていた子どもたち。がむしゃらに挑戦してみたり、励まし合ったり、仲間から仲間へと伝えていく中で、乗れるようになっていって欲しいと思います。
太鼓では『八丈島太鼓』を仕上げ、『萩太鼓』にも取り組んでいきます。自分の課題に向き合いながら、精神的にさらに成長していけるようにしたいと考えています。
幼稚園生活の締めくくりとしての「劇づくり」もあります。自分や仲間を客観的に見つめながら、演じることの難しさや面白さを感じたり、一人ひとりが力を出し合って1つの劇を作りあげていく充実感や喜びを感じられたりする取り組みにしたいと思います。
活動が盛り沢山の3学期です。体調の管理に心を配って、元気に楽しく過ごして欲しいと願っています。 
注:風の谷幼稚園の年長児クラスでは毎年クラスごとに、一人ひとりの名前が入った読み札を作り、それを絵札で表した「かるた」を作るカリキュラムを行っている。

風2組 学級通信「麦」より

親子で糸紡ぎ。これを使った「ポシェットづくり」は後ほどご紹介する。

さて、いよいよ幼稚園での最終学期を迎えた風の谷の子どもたち。冒頭の学級通信からもわかるように、3学期は“風の谷教育”の仕上げにふさわしいカリキュラムが目白押しである。今回は、この中から「ゴム版画」「ポシェットづくり」についてご紹介しよう。

集中力ってどうやって育てるの?

密着レポート第22回「のこぎりで広がる5歳児の可能性」で一部を紹介したが、風の谷幼稚園の年長児になるといわゆる「刃物」を使うカリキュラムが組み込まれている。例えば、お誕生月の子どもを祝う「お誕生会」では包丁を使って調理活動を行い、そして「箱作り」では“のこぎり”を使って材料を切り出し、この3学期には彫刻刀を使ってのゴム版画だ。これには多くの教育意図がある。

「用途通りに使えば刃物も危険ではない」というのが幼稚園の考え方。刃物によって「集中力と緊張感を持続できる子ども」を育てる。

まず1つ目は、第22回で紹介した「使いこなせる道具が増えることで自分の可能性が広がるのを実感させる」ことである。そして、「道具は用途通りに使えば危険な物ではない」「正しい指導を行えば5歳児の段階で刃物は十分使いこなせる」という認識と緻密な指導のもとで、5歳児たちにその技能を獲得させる。

そして、その総仕上げともいえるのが、この彫刻刀を使ってのゴム版画だ。これはもちろん、使える道具が増えることであり、新たな技能を獲得することにつながる。しかし、この最終学期に行われる「ゴム版画」の一番の狙いは別のところにある。それが冒頭の学級通信にも記された「集中力と緊張感を持続させられる子ども」を育てるということだ。

「最近、小学校などで授業に集中できなかったり、緊張感を持続できなかったりする子どもが増えていると言われます。これは幼児期の教育が大きく影響しているのではないかと考えています」(天野園長)

目の前の材料を彫刻刀で削り取っていく感覚。これを違った側面から捉えるならば、「集中してやらなければ自分の身に傷がつく」ということをリアルに感じるということでもある。この感覚は、テレビゲームなどでは育たないだろう。ゲームに集中できたとしても、体で感じる緊張感はこの刃物を使った活動には及ばない。この緊張感の中で子どもたちは課題をクリアしていくのである。

5歳の子どもが彫刻刀を使うことに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれないが、しっかりと道具を手入れし、ゴムという比較的扱いやすい素材を使って、教師が適切な指導をするならば決して危険なことではない。もちろん、指を切る確率がゼロではないが、この時期にこそ「集中力」や「緊張感を持続できる力」を育てなくてはならないという信念のもと、風の谷幼稚園では「ゴム版画」のカリキュラムを取り入れているのである。

子どもにゴミは作らせない

幼稚園で飼っている羊の「キンちゃん」。子供たちは年中時からお世話をする。キンちゃんから色々勉強させてもらい、その集大成としてポシェットを作る。

続いては、「ポシェットづくり」について紹介しよう。この活動も幼稚園3年間の中で育んできた力の集大成的な意味合いを持つ。子どもたちは幼稚園で飼われている羊の毛を使ってポシェットを編んでいくわけだが、これにも多くの教育意図が含まれている。

まず、子どもたちは年中児クラスの1年間、幼稚園で飼っている羊(名前は「キンちゃん」)の世話をする。食事の面倒をみたり、キンちゃんをつれて近所に散歩に出かけたりする。もちろん、キンちゃんは子どもたちの人気者だ。

そして、年長児クラスになった5月には、プロを招いて羊の「毛刈り」を眼前で見学する。毛で「もこもこ」だったキンちゃんがスリムになっていく様子に、子どもたちは驚いたり、喜んだりとさまざまな反応を示す。

この後、子どもたちは刈った毛を洗って、干して、そして丸めて「フエルトボール」を作って遊ぶ。さらに1月に入ると、自分たちで毛を染色して糸を紡ぎ、織機を使ってポシェットを編む。つまり、子どもたちは原材料がさまざまな最終成果物に姿を変えるまでの過程を、現実に体験しているのである。

ものが豊かになった現代、大人ですら、自分たちの使っているものが「何でできているのか」「どのような工程でつくれられているのか」「どれほどの人が関わっているのか」ということに思いを馳せられる人は少ないかもしれない。しかし、風の谷の子どもたちは、好奇心旺盛な幼児期に、体験を通じてこのような「つながり」を意識できる感性、さらには「つながり」を大切にできる価値観のベースを育んでいるのである。

そして、ポシェットづくりのもう1つの大切な教育目標は「失敗を恐れず、やり直しがきくと思える子ども」を育てることだ。密着レポート第7回で、子どもが「うまくいかなかった」と感じているときに、大人が子どもに対して、可愛さのあまり安易な慰めをしてしまうと、子どもの成長意欲や目標達成意欲がそがれる可能性があることを紹介した。そして、「どこがダメだったのか? どうすればうまくいくのか?」を自分で考えさせて、再挑戦をさせ続けることで、「失敗を恐れない心」や「問題は必ず解決できると思える心」が育っていくことを述べた。まさにポシェットづくりは、年長児の最終学期であるこの時期に格好の教材となる。

なぜならば、まずポシェットを自分で編むということは5歳児にとっては、決してやさしいことではない。むしろ、ハードルは高いが、「少し背伸びをすればなんとかなる」目標でもある。だからこそ、多くのことを学べるのだ。

天野園長がこのポシェットづくりにおいて掲げているフレーズは、「子どもにゴミは作らせない」。誤解のないように付け加えておくと、もちろん、子どもたちが一所懸命に作ったものをゴミだと思っているわけではない。しかし、「せっかく作るのであれば実際に使えるものを作らせたい」という気持ちとともに、その水準を目指すからこそ、子どもたちの成長力が引き出せると考えているのだ。そして、出来栄えが不十分であれば「やり直し」に挑戦するよう指導する。

こうして、子どもたちは何度もやり直しをしながら、「実際に使えるポシェット」を作り上げていく。そして、出来上がったポシェットは、子どもたちの幼稚園の最後の学期に素敵な彩りを添えることになる。その様子を学級通信から見てみよう。

自分たちで作ったポシェットをさげて、鳥2組(年中児クラス)と一緒に散歩に出かけました。ポシェットの中には特別に、ティッシュペーパーにくるんだ氷砂糖を忍ばせて・・・。
“鳥組には内緒ね!”としてあったので、子どもたち、言いたくてウズウズ。
「このなかには、ティッシュのゴミが入っているからねぇ」と里菜ちゃんにむかってわざわざアピールしていた奏ちゃん。
「そうそう、鼻水が出ちゃってそのゴミがね」と同調する健くん。そう言いながら、さっきまで車道側を歩いていたかと思ったら、ヒョイと鳥組の嵐くんと入れ替わり、また少しするとすぐに車道側へ。―なんと下の沢に続く崖のところだけは自分が崖側を歩くようにと場所を入れ替わってあげていたのです。
(嵐くんに向かって)「はい、もういいよ」と言う健くんの言葉を聞いて“もしかして”と思い聞いてみると、「そう、ここちょっと怖いかなと思ってね」との返事。そこまで考えられるようになっていることに今更ながら驚いてしまいました。
たんぽぽ畑に着いても、手をつないできた相手とずっと一緒に遊んでいた子どもたち。“最後に一緒にあそんだこと、ずっと覚えていてね”―そんな子どもたちの気持ちが伝わってくるようでした。
風2組 学級通信「麦」より

この手作りポシェットは、まさに3年間の成長の証であり、その中には素敵な思い出がいっぱいに詰まっているようだ。

見学会予約・問い合わせ先
風の谷幼稚園 : 044-986-5515

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